歯周病と全身疾患

歯周病は普段の食生活や不摂生などからかかる「生活習慣病」と言われており、沢山の患者さんがこの病気に悩まされています。歯周病は今や現代病ともいわれ、状態がひどくなってからだと治療の効果もなかなか出ない上に患者さんが初期症状にほとんど気付いていないというのが歯周病のやっかいな点です。

歯を失う原因の第1位は虫歯ですが、歯周病も虫歯の次に歯を失う大きな原因になっています。特に40歳あたりからは、歯周病の比率が高くなってきます。歯の周りには、歯を支える様々な組織(歯肉、歯根膜、セメント質、歯槽骨)があります。歯周病は、これらの組織が細菌に感染して起こり、次第に歯を支えている骨(歯槽骨)が溶けていく病気です。虫歯は歯が溶ける病気ですが、歯周病は骨が溶ける病気なのです。

歯周病は死に至る病気(全身疾患)と密接な関係にあります

10年ほど前、予防先進国アメリカのマスコミからFloss or Dieというメッセージが発信され、全世界に衝撃が走りました。

日本人には大げさな見出しだと思われるかもしれませんが、つまり「デンタルフロスを使って口の中の手入れを毎日きちんとやりますか?それとも歯周病になってさらに命をおびやかす全身の病気にもなって、死を選びますか?」という意味です。

実はこのようなメッセージが発信された背景には、「口の中の健康は全身の健康に通じる」という考え方があるのです。私たちの口の中には清掃のよい人でも細菌数は100億個、歯周病の人は1兆個が住みついており、歯ぐきの中の血管にもぐりこんで全身の臓器へ運ばれます。

日本人の死亡原因の2位の心疾患、3位の脳血管疾患、4位の肺炎は歯周病が密接につながっていることがわかってきているのです。

歯周病菌が肺にまで侵入~歯周病と肺炎~

かぜを引いてこじらせると肺炎になり、ひどい熱とせきに胸の痛みで大変苦しい思いをします。そして、歯周病にかかっていると、閉塞性肺炎や吸引性肺炎にかかる危険性が高まってしまいます。さらに最近、歯周病菌は呼吸器に炎症を引き起こす他の病原菌が気管支や肺に住み着くのを助ける役割もあることも研究で分かってきました。

お年寄りで嚥下反射の機能が低下していると、口の中の歯周病菌が唾液に混じって、誤って気管へ流れ込んでしまうと嚥下性肺炎が起きてしまいます。寝る前に口の中をきれいにして微生物を少なくしておくことは、むし歯や歯周病の予防だけでなく、気管支炎や肺炎の予防にもつながります。汚れた入れ歯を使い続けることはとてもキケンです。入れ歯の手入れもまめに行ってください。

口の中に歯垢が多い

歯垢の中の歯周病菌が唾液に混じる

のどから気管に入る

気管や気管支の粘膜で歯周病菌が炎症を引き起こす

気管支炎・肺炎になる

骨粗しょう症と歯周病の関係

更年期後の女性や高齢者は骨の密度が低下して骨粗しょう症が生じ、歯をしっかり支えているアゴの骨の密度も低下していきますので、歯周病が起こす炎症によって歯の周りの骨が溶けやすくなります。

つまり、歯周病患者で骨粗しょう症である方は、歯周病での炎症をそのままに放置すると一気に歯の周りの骨がなくなり、たくさんの歯が抜け落ちる結果に陥ってしまう恐れもあります。

このような危険を減らすためにも、きちんと歯磨きをすることがたいへん重要になります。
口の中をいつもきれいに保つことは、将来の生き方まで左右するといっても過言でありません。

女性ホルモンの低下(更年期時)

骨を壊す壊骨細胞を刺激

骨のカルシウム量が低下

歯の周りの骨の密度が低下

歯周病が進行しやすくなる!

いたるところで動脈硬化が~歯周病と脳卒中

重度の歯周病のある人ほど動脈硬化による心臓疾患が多くなり、また、冠動脈の動脈硬化が起きている場所で歯周病菌が見つかることが、日本やアメリカ、カナダの研究者たちによって発表されています。

歯周病菌が血管の中に入り血管の壁にとりついてアテローム性プラークという堆積物をつくり、血管をせばめる働きをするのです。歯周病にかかっている人はかかっていない人よりも脳卒中になる危険性が2.5倍高くなると報告されています。

脳卒中や心臓病に対して不安のある方は、歯周病の治療をきちんとおこなっておく必要があることを覚えておいてください。

歯周病がある

歯周病菌が歯茎の中の血管に入る

血管の壁に歯周病菌がとりつき
アテローム性プラークをつくる

・血液の流れが少なくなる
・血管が詰まったり、破裂する場合もある

脳卒中・心筋梗塞・狭心症

歯周病菌はあなたの心臓を狙っている:心臓病との関係

「歯周病は心臓病と深い関係がある」と聞いたら「えっ、なぜ?」と疑問に思う人は多いでしょう。

でも、これは本当の話なんです。
心臓疾患にかかって致命的な心臓発作を引き起こす確率は、歯周病患者のほうが歯ぐきが健康な人に比べて約3倍も高いことがノースカロライナ大学の調査で判明しました。

歯周病がある

歯茎の中に歯周病菌が侵入

歯周病菌が血管の中に入り込み、心臓へ

・心臓の血管に歯周病菌がとりつき動脈硬化を起こす
・心臓の弁や内膜に歯周病菌がとりつき心臓内部で炎症を起こす

心臓病の危険性が高まる
(感染性心内膜炎・狭心症・心筋後続)

糖尿病治療は歯周病の治療から

日本では20人に1人が糖尿病にかかっており、症状は体がにぶいだけでなく、網膜症や腎臓病など、全身性の病気に悩まされることになります。
さらに体中の微生物と戦う機能が低下するので、当然歯周病菌にも十分に対応できなくなり、口の中での増殖を一方的に許してしまいます。
そのため歯周病はどんどん悪くなっていき、糖尿病性歯周病とでもいった状態になります。現在歯周病は糖尿病の第6番目の合併症といわれます。

重度の歯周病がある

炎症によって生じた物質(CRP)やサイトカインが血液に入り全身に回る

<CRP>
・肝臓の働きが鈍る
・ブドウ糖の代謝障害
<サイトカイン>
・糖の代謝を妨げる

インスリン(糖を下げるホルモン)が作用しにくくなる

糖尿病が悪化

歯周病ママの赤ちゃんは小さい? ~歯周病と早産(低体重児)~

アメリカで発表されましたが、歯周病患者では早産が多く、低体重児出産の確率が健常者の7倍!の数字が出ております。

原因の一つとして歯周病菌が腫れた歯ぐきの血管から血液に入り、それが羊水内に入って胎児の成長に影響し、お産が早まったり、予定通りに生まれても小さめの赤ちゃんになります。

これまでは喫煙や飲酒が原因として知られていましたが、最近では要因として歯周病の存在もにわかにクローズアップされてきました。妊娠すると歯肉炎になりやすく、またつわりがひどくてつい歯磨きを怠ったり、口の中の健康にとって不利な条件がいっぱい増えてしまいます。おなかの赤ちゃんのことを思いやり、歯磨きをがんばってください!

歯茎に炎症がある

歯周病菌や炎症の産生成分が血液の中に入る

・胎盤内での病原菌の増殖を助長し、胎児の成長を妨げる
・血液中のプロスタグランディンが子宮の収縮を早める

・低体重児出産/(2,500g未満)
・早産/(37週未満)